健康医学の理念と概念について
健康医学( health medicine )とは,個人を重視し,その健康に係わる諸問題を解明し、これを科学として確立していくことを目的とする学問の分野である。ここにいう「健康」とは WHO(1984年)がその保健憲章の中で定義した”Health is a state of complete physical,mental and social well – being and not merelythe absence of disease or infirmity” に従うものである。わが健康医学会ではこの文章を「健康とは、完全な身体的、精神的および社会的幸福な状態のことであり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」と訳したい。人間の健康は身体的、精神的、社会的など多くの側面から考究すべき問題であるから、健康医学の分野は、非常に幅広く展開していくことが予想される。したがって,健康医学の目的を円滑に達成するためには、想定されるいろいろの分野に共通する見解、すなわち理念および概念について考えておく必要がある。まず、健康医学会の理念は、以上の目的から、人間の健康について医学的に研究し、その成果を個人を対象とする実践において適用し、その健康の保全と改善、さらに増進に役立てることである。
次に、健康医学の研究と実践において、また本学会のあり方について、共通の見解として受けとめるべき概念は、次のように考えられる。
以上健康医学の理念と5つの概念、すなわち、個人の健康志向、実学性、集学性と包括性、生体重視、ヒューマニズムと民主性をとりあげてみた。もちろん、以上の健康医学の理念と概念は諸先生のご研究と実践の中で変容すべきものと考えている。このような「健康医学」と基本理念と槻念に基づいて、わが健康医学会が研究を進める分野(戦略)としては以下のような内容が考えられる。
- 今日の先進文明国にみられる平均寿命の延長という量的価値に加えて、個人の Life (生命、生活、人生、人格)の質、すなわち QOL の向上を目指し、それによって、いわゆる半健康者であっても「幸福な状態」を享受できるようにする方策についての諸研究。
- 健康者(含半健康者)を対象とした医学的諸検査による健康の指標とその判定、その性・年齢階層による変動の傾向についての諸研究。なおこの分野においては、身体的のみでなく精神的な健康度の判定や、また各個人のライフ・スタイルとの関係についての研究も重要な課題である。
- 個人の健康に及ぼす外環境と内環境との関係についての諸研究。
- 個人の健康管理(栄養、運動、休養、嗜好)および臨床各科(含、歯科)の立場からみた個人の「健康」対策についての諸研究。
- 集団の中の個人としてみた場合の社会医学的健康管理についての諸研究。
- その他個人の健康に係わる包括的な諸問題についての諸研究。
- 以上の研究の諸成果を個人の健康の保全・改善・増進に還元する方策についての諸研究。